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ヴィーガン料理は楽しむもの 「健康=まずい」を覆す、LA流食文化とは

ヴィーガン文化を説明する宮内さん

ヴィーガンとは、完全菜食主義者のこと。肉や魚、卵、乳製品などすべての動物性食品(ハチミツを含む)を口にせず、米や麦などの穀物や、豆や野菜などの植物性食品のみを食べる人を指します。

最近は、ヴィーガンが海外セレブやスポーツ選手から注目され始めてはいるものの、日本ではまだ偏ったイメージがあるのも事実。

では、日本より多様な食文化が受け入れられている海外では、ヴィーガンはどう捉えられているのでしょうか。今回は、ヘンプとヴィーガンをコンセプトに展開しているカフェ「HEMP CAFE TOKYO」のオーナー、宮内達也さんにお話を伺いました。

「野菜しか食べないって、本当に体に良いの?」「ヴィーガン料理、気になってたけど、ちょっと抵抗がある…」と感じている人は、多様な食文化を楽しむヒントを得られるかもしれません!

ヴィーガンはベジタリアンのカテゴリの一つ

「ヴィーガンって、野菜を食べる人だよね?」と、なんとなくイメージしている人は多いと思いますが、正しい意味を理解していない人も多いのではないでしょうか。

ヴィーガンとは、ベジタリアンのカテゴリの一つ。書籍『完全菜食があなたと地球を救う ヴィーガン』によると、次のように定義されています。

ベジタリアン
心身が元気になる食事をする人(牛や豚、羊などの畜肉であるレッドミートを食べない人)

ヴィーガン
「すべての動物の命を尊重し、犠牲を強いることなく生きるライフスタイル」の名称

ヴィーガンとはライフスタイルの名称なので、毎日常にヴィーガンでないといけない訳ではありません。日によって柔軟に、その時の気分で取り入れても良いもの。「今日のランチは中華にする?パスタにする?それともヴィーガン?」くらいの気持ちで食べても良いんですね。

ときどき芸能人で、ヴィーガンだと名乗っているのに肉料理を食べるテレビ番組に出演し、矛盾しているとSNS上で反感を買っている人がいます。そのような人たちも常にヴィーガンな訳ではなく、自分のライフスタイルに合わせて適度にヴィーガンを取り入れているのかもしれません。

ちなみに、ベジタリアンはヴィーガン以外にもさまざまなタイプがあります。

【ベジタリアンのタイプ】

肉(牛・豚)肉(鶏)乳・乳製品
ヴィーガン(完全菜食)×××××
ラクト・ベジタリアン(乳菜食)××××
ラクト・オボ・ベジタリアン(乳卵菜食)×××
ペスコ・ベジタリアン(魚乳卵菜食)××
ポーヨー・ベジタリアン(鶏魚乳卵菜食)×
※△:人によっては食べない人もいる

ヴィーガンは肉や魚、卵、乳製品、さらにハチミツまでも摂取しません。ですが、肉・魚は食べないけれど、乳製品や卵は摂取するラクト・ベジタリアン、魚・卵・乳製品は摂取するラクト・オボ・ベジタリアンなど、野菜以外も摂取するベジタリアンもいるのです。

ペスコ・ベジタリアンは卵や乳製品、魚、ポーヨー・ベジタリアンは魚と鶏肉を食べます。この二者は、もともと昔から菜食主義であった日本人とも近しいライフスタイルだと言えるでしょう。

ちなみに、ヴィーガンになる理由としては、健康面だけでなく、動物愛護やエコを意識したりなど、さまざまな視点が挙げられます。「ヴィーガンがエコにつながるの?」と疑問を持った人もいるかもしれませんが、2007年に、ノーベル平和賞受賞者のパチャウリ博士が「肉の消費量を減らせば、地球温室効果ガスを効果的に減らせる」(牛が出すメタンガス、輸送時に排出される二酸化炭素などが環境に悪影響なため)と主張したことを発端に、世界的にヴィーガンはエコだという認識が広まりました。

ヴィーガンの発端は動物愛護

そもそも、肉食中心だった西洋で「ベジタリアン」という言葉が生まれたのは19世紀。1847年、イギリスのマンチェスター聖書協会会員らによって、初期キリスト教のシンプルライフへの憧れから、「肉や魚は食べず、乳製品をや卵の摂取は本人の選択に任せ、穀物、野菜、豆類の植物性食品を中心にした食生活を行う」運動が展開されました。

ベジタリアンは、その際に発足された英国ベジタリアン協会によって使われはじめた言葉です。

1840~1842年ごろ、すでに「ベジタリアン」という使われていたとされる諸説もある
出典:英国ベジタリアン協会

第二次世界大戦の終焉が見えてきた1944年、英国ベジタリアン協会の中でも植物性食品しか食べない人が集まり、英国ヴィーガン協会を設立。「ヴィーガン」という言葉は、設立者の一人であるドナルド・ワトソンが動物性食品の摂取に反対したために造られました。

最近では、健康や美容、ダイエットのためにヴィーガンをはじめる人も少しずつ増えてきていますが、はじまりは動物愛護の観点だったのです。

実はずっとヴィーガンだった日本人

実は日本人は、675年に天武天皇が「肉食禁止令」を発布してからずっとヴィーガンでした。五穀を主食に野菜や豆、海藻を食べ、お祝い事があるときだけ魚を特別なごちそうとして食べる食生活が定着していたのです。

明治維新後に肉食禁止令が開放され、都会を中心に肉を食す西洋風の食事がもてはやされるようになりましたが、その後も長く菜食の習慣は続いていました。

日本にも明治の中頃にベジタリアンの概念が入ってきましたが、菜食の習慣が続いていたにも関わらず、それ以降も日本のヴィーガン人口は少ないままです。ヴィーガンレストランの検索サービスを展開するVegewelが、2021年12月に行った調査によると、ヴィーガンの食事に取り組んでいる人は、アンケートを行った2,413人中、54人(2.2%)ということがわかりました。

ヴィーガンが日本で流行らない理由の一つとして、宗教的なものとして捉えられていることが考えられます。無宗教人口の多い日本では、ヴィーガンを他人事のように感じる人が多いのでしょう。ベジタリアンという言葉が生まれた時に、キリスト教の影響を受けていたのは確かですが、実際のところ、何かの宗教を信じているからヴィーガンである、ということではありません。ライフスタイルの選択肢の一つなのです。

参考
出典:【書籍】垣本 充、大谷ゆみこ(2020年)『完全菜食があなたと地球を救う ヴィーガン』KKロングセラーズ
出典:Vegewel

LAのヴィーガン料理店は、7割以上が “普通” のお客さん

日本は、ごはんと汁物、漬物などを食べてきた菜食主義の国。にもかかわらず、海外の方が、日常的にヴィーガンをライフスタイルに取り入れる習慣が定着しています。

今回お話を伺ったHEMP CAFE TOKYOのオーナー 宮内さんは、日本のフレンチレストランで修行をしたのち、2017年、同カフェをオープン。お店を始めるにあたり、ロサンゼルス(以下、LA)に2週間ほど滞在し、現地のヴィーガンレストランを調査したそうです。

ーーLAでは、ヴィーガンはどのような存在なのでしょうか?ヴィーガンに対して、日本とは考え方が全然違いそうですよね。

宮内さん:本当にまったく違いましたね。ヴィーガンは当たり前、という感じでした。ヴィーガンのお店なのに、ヴィーガン表記をしてないところもたくさんあります。日本だとナチュラリスト(※)が食べるもの、といった敷居の高いイメージがありますが、LAのヴィーガンレストランには、7割以上がヴィーガンじゃない人が来てる。ライフスタイルの選択肢の一つとして、ヴィーガンのお店に行ってるだけなんです。

海外はウェルネスが進んでいるので、当たり前のようにジムに行ったり、ヨガやフィットネスなど健康的なことをライフスタイルに取り入れている。その一つとして、ヴィーガンを選択しているイメージだと思います。

※ナチュラリスト:自然に関心がある人。自然主義者。


(宮内さんがLAで食べたヴィーガンピザ。ボリューミーで食べ応えがありそう!)

ーー確かに日本って、ヴィーガンの選択肢が少ないですよね。海外だと、ヴィーガン対応しているとお店側がわざわざ表記する必要ないくらい一般的なんでしょうか。

宮内さん:LAでは、お客さんが「今日、ランチでヴィーガン食べに行こう」みたいなノリなので、フレンチもイタリアンもヴィーガンも、お店同士が同じレベルで戦っている感じですね。規模感も日本とは全然違うし、本当に進んでいるなと思います。

ーーヴィーガンが健康に良いとはわかってはいるものの、日本だと「野菜だけしかとらないって逆に不健康なんじゃない?」と思っている人も多いと思います。その点は海外だとどうなんですか?

宮内さん:同じように考えている人はいると思います。100%ヴィーガンが健康かと言われると、もちろんそうではない。でも海外は、レストランだけでなくスーパーの食材でもヴィーガンが普通に暮らせる選択肢が当たり前にたくさんあるので、日本よりはヴィーガンに対する考え方が偏りづらいとは思います。

野菜ってサラダのイメージがあると思うんですけど、穀物も野菜です。野菜や穀物でタンパク質も摂取できるので、ヴィーガンのアスリートの方も結構います。でも、お肉を食べていても健康な人はもちろんいる。僕自身ヴィーガンではないですし、お肉を食べることに反対ではないですが、どのくらいの量を食べるかと、どの肉を食べるかが大事だと思います。

ヴィーガンじゃない人でも健康な人、不健康な人はいるし、ヴィーガンでも同じように両方いるので、健康かどうかを食のライフスタイルだけでくくるのは違うのかなと思いますね… 偏りがなく、バランス良くとることが一番大事です。

ーー確かに、極端に肉ばっかり、という訳ではない限り、一概に健康、不健康は語れないですね。ちなみに、スーパーに売られているヴィーガン向けの食材にはどのようなものがあるんですか?

お肉コーナーではビヨンドミート(※)が売られていたり、牛乳の並びにプラントベースのミルクがあったり。チーズも乳製品を使っているものとそうでないものがあって、どんな食材でも絶対に両方ある、という感じです。

※ビヨンドミート:代替肉(植物由来の肉)を原料にする食品ブランドのこと。
※ホールフーズ:オーガニック商品がうりのアメリカのスーパーマーケットチェーン。

ヴィーガンレストランは、てっきりストイックなヴィーガンの人だけが行くお店だと思っていましたが、LAでは誰もが日常的にヴィーガン料理を楽しんでいるようです。

肉食中心文化が日本より先行していたため、その弊害を乗り越えた結果と言えるかもしれませんね。

ヴィーガンは意識するものではなく、楽しむもの

ーー最近は、健康面だけでなく動物愛護や、エコ視点でもヴィーガン料理が注目を浴びています。宮内さんご自身が、ヴィーガン料理を扱う上で大切にされていることってありますか?

宮内さん:そうですね… アフリカの公園に「プレイポンプ」という遊具があるんですけど、子供がそれを使って遊んでいると、実はそれが井戸の水を汲み上げる装置になっていて。

それと同じで、僕も料理が好きなので、好きなことで自分や周りの人が健康的になれたら一番いいなと思っています。それも、健康や環境のために食べるのではなく、おいしいから食べる。結果それで健康でいられたり、環境への負担を減らせたら理想ですよね。

ーー確かに、環境のために野菜をとろうとか、そこまでしてヴィーガンの食事をとろうと思うのはなかなか難しいですよね。

宮内さん:今着ている服も、自分がいいなと思って買うじゃないですか。ご飯だって、おいしそうだなと思ったから購買して食べている。意識して取り組むことではなく、それが知らず知らずのうちに環境的なもの、健康的なものだったら良いですよね。

宮内さん:実は僕、小学生のとき80kg以上の体重があって、めちゃくちゃ肥満児だったんですよ。ジャンクフードが好きな家庭で育ったので、 毎日ポテトチップス食べてコカコーラ飲む、みたいな生活をしていました(笑)。

その生活は誰が見ても不健康ですけど、でもそのとき、ポテチとコカコーラで健康になれたら一番最高じゃん、と思って。青汁とかもそうですけど、世の中の健康なものって大抵おいしくない。「健康=おいしくない」という構図に、ずっと疑問を感じていました。

ーーヴィーガンになろう、ヴィーガン料理を食べようと意識的に行うのではなくて、本当に好きなものを自然と選んで、それが結果的に良い影響につながってたら最高ですよね。

宮内さん:そうですね。LAではそれが成り立っているんです。イケてるお店に行ったら、そこがたまたまヴィーガンのお店だったとか。 頑張って環境のためにヴィーガンのお店に行くのではなく、かっこいいお店でランチしたら、自分たちも満足できてうれしいし、健康や環境にも良い。とても豊かなライフスタイルだと思います。


(宮内さんが訪れたLAのヴィーガンレストラン)

宮内さん:ヴィーガンで生きることが、日本だと我慢と言うか、辛い事のような感覚があるじゃないですか。お肉食べれないなら、何食べるんですか?と言う人もいますし。極端なイメージがありますよね。

正しいことを正しく伝えようとしても絶対に伝わらないと思います。ヴィーガンが環境や健康に良いといくら僕が言ったところで、その人の人生は変わらない。正しく伝えるのではなく、「楽しく伝えること」が大切です。

日本の人口の9割以上がヴィーガンではない人で、ヴィーガンの人って本当にごく一握り。ヴィーガンが来る場所を作る、というよりは、その90%の人たちに来てもらえるようなお店にしたいと思っています。

ヴィーガン料理と聞くと、「野菜を我慢して食べる」というイメージがまだまだ強いですが、実はずっと昔から菜食主義だった日本。LAのように、ふらっと入ったお店がたまたまヴィーガン料理店だった、コンビニで手にとった商品がたまたまヴィーガンのものだった、という環境が整えば、だんだんと馴染みのあるものとして受け入れられていくでしょう。

宮内さんは、2017年時点でLAにヴィーガンの調査をしに行き、その後カフェをオープンしているので、言わばヴィーガンのパイオニア。日本でも、もっと気軽にヴィーガンを楽しめる人を増やすべく、日々奮闘しています。